適用範囲が拡大された下請法改正への対応について

2025年5月16日に国会で下請法等の改正法が成立し、同月23日公布されました。法令の名称変更がなされたほか、内容面でも大幅な変更が行われています。

中小企業や個人事業者に対して業務を委託することがある場合や、自らが中小企業や個人事業者である場合には、下請法等改正の内容を正しく理解しておくためにも、当社は、備忘録としてブログ掲載しております。

(1) 「下請」等の用語の見直し

下請法 → 中小受託取引適正化法

従来の下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」ですが、今回の改正によって製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律に変更されました。

新名称の略称としては「中小受託取引適正化法」「中小受託法」「取適法」などが想定されています。本記事では「中小受託法」を用います。
親事業者 → 委託事業者

下請法が適用される取引の発注者である「親事業者」は、今回の改正によって「委託事業者」に変更されました。

委託事業者の範囲については、従業員基準(後述)が追加されたことに伴い、従来の親事業者に比べて拡大しています。
下請事業者 → 中小受託事業者

下請法が適用される取引の受注者である「下請事業者」は、今回の改正によって「中小受託事業者」に変更されました。

中小受託事業者の範囲についても、委託事業者と同様に従業員基準(後述)が追加されたため、従来の下請事業者に比べて拡大しています。

下請代金 → 製造委託等代金

下請法が適用される取引の対価である「下請代金」は、今回の改正によって「製造委託等代金」に変更されました。

(2) 下請法(中小受託法)の改正点
① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(価格据え置き取引への対応)
② 手形払等の禁止
③ 運送委託の対象取引への追加(物流問題への対応)
④ 従業員基準の追加(適用基準の追加)
⑤ 面的執行の強化
など

(3) 下請中小企業振興法(受託中小企業振興法)の改正点
① 多段階の事業者が連携した取組への支援
② 適用対象の追加
③ 地方公共団体との連携強化
④ 主務大臣による執行強化
など

実務での対策(中小企業・不動産業者向け)

実務対応内容
✔ 業務委託時は「発注書+請書」または契約書をセットで保管
✔ 毎回の発注に対して記録を残す(ExcelやクラウドでもOK)
✔ 支払サイト(入金時期)を明文化・厳守
✔ 発注価格は相見積などで妥当性を証明できるように
✔ LINEや口頭で済ませていたやり取りは見直し

不動産業者が「下請法」に該当する可能性のあるケース

下請法は、親事業者が下請事業者に対して物品の製造委託や役務の提供(サービス)を発注する場合に適用されます。つまり、不動産業者といえども、自社が親事業者として他事業者に何か業務を委託する場合には、下請法が関係する可能性があります。

▼ 該当する可能性がある取引例(不動産業で)

委託内容該当の可能性備考
建物の清掃、設備点検等の管理業務の委託継続的な業務委託(役務の提供)
物件紹介を別会社の仲介業者に委託成果報酬型なら下請法の対象外になることも
ホームページや広告制作、動画制作の外注情報成果物の作成は下請法対象
物件撮影を外部カメラマンに依頼写真という情報成果物を納品する形
登記手続きを司法書士に依頼士業は下請法の対象外(独立した専門家)